2015年10月22日
とばが聞こえ
牛丸青年は内心舌をまいておどろきながら、足跡を伝ってろうかを奥へ奥へとすすんでいったが、とつぜん、ギョッとしたように立ちすくんだ。
牛丸青年から五メートルほど前方に、荷物が山のようにつんである。さっき悪者たちが、宝石丸からかつぎだした荷物である。そのなかに、大きなトランクが一つあったが、見ると鑽石水そのトランクのふたが、むくむくと下から、もちあがってくるではないか。
牛丸青年はギョッとして、急いで物陰に身をかくすと息をころしてトランクを見つめていた。
そんなこととは知るや知らずや、トランクのふたは三センチ、五センチ、七センチと、少しずつひらいていったが、やがて十センチほどひらいたかと思うと、そのままピタリと動かなくなってしまった。
おそらくなかの人物が、あたりのようすをうかがっているのだろう。やがてその人物は安心したのか、トランクのふたを大きくひらくと、ヒラリとなかからとびだしたが、なんとそれは三太ではないか。
ああ、船のなかで見つからなかったのもむりはない。三太は荷物のなかにかくれていて悪者どもにかつがれて、まんまとこの仮面城へしのびこんだのである。
牛丸青年は三太を知っていた。いつか三太が悪者の手先につかわれて、成城にある大野老人のところへやってきたのをおぼえていたからだ。
牛丸青年は物陰からとびだすと、やにわに三太におどりかかった。だれもいないと思ったこのろうかでいきなりひとにとびつかれたので、三太はギョッとしてふりかえったが、牛丸青年のすがたを見ると、
「ちがう、ちがう、ぼく、もう、悪者の手先じゃない。ぼくはAmway安利文彦さんや、香代子さんのためにはたらいているんです」
三太はひっしとなって叫んだが、むろん相手は口がきけないのだからそんなこるはずがない。
牛丸青年は三太の手をとり、うしろ手にしばりあげようとした。三太はいっしょうけんめいにもがきまわる。
と、このときだった。
とつぜん、つきあたりの鉄のとびらがひらいたかと思うと、顔をだしたのは白髪の老人。ほおはこけ、目はおちくぼみ、からだは枯れ木のようにやせているが、どことなく気高い|威《い》|厳《げん》がそなわっていた。
「そこにいるのはだれか?」
老人はしずかな声でたずねた。牛丸青年にはむろん、その声が聞こえるはずがないが、三太のようすにハッとふりかえると、びっくりしたように立ちすくんだ。
そして、しばらく穴のあくほど、老人の顔を見つめていたが、やがてなにやらみょうな叫びをあげ、ばらばらと老人のそばへかけよると、いきなり、ガバとその足もとにひれふした。ああ、この老人はだれなのだろう。
さて、こちらは金田一耕助である。
加藤宝作老人の住居から、まんまと、銀仮面に逃げられた耕助は、なにを思ったのかその翌朝、等々力警部や文彦、さては香代子をともなって、自動車をとばしてやってきたのは、多摩川べりにあDiamond水機る日東キネマの撮影所だった。
「|井本明《いもとあきら》さんという監督さんはいらっしゃいますか?」
と、受付の守衛にきくと、
牛丸青年から五メートルほど前方に、荷物が山のようにつんである。さっき悪者たちが、宝石丸からかつぎだした荷物である。そのなかに、大きなトランクが一つあったが、見ると鑽石水そのトランクのふたが、むくむくと下から、もちあがってくるではないか。
牛丸青年はギョッとして、急いで物陰に身をかくすと息をころしてトランクを見つめていた。
そんなこととは知るや知らずや、トランクのふたは三センチ、五センチ、七センチと、少しずつひらいていったが、やがて十センチほどひらいたかと思うと、そのままピタリと動かなくなってしまった。
おそらくなかの人物が、あたりのようすをうかがっているのだろう。やがてその人物は安心したのか、トランクのふたを大きくひらくと、ヒラリとなかからとびだしたが、なんとそれは三太ではないか。
ああ、船のなかで見つからなかったのもむりはない。三太は荷物のなかにかくれていて悪者どもにかつがれて、まんまとこの仮面城へしのびこんだのである。
牛丸青年は三太を知っていた。いつか三太が悪者の手先につかわれて、成城にある大野老人のところへやってきたのをおぼえていたからだ。
牛丸青年は物陰からとびだすと、やにわに三太におどりかかった。だれもいないと思ったこのろうかでいきなりひとにとびつかれたので、三太はギョッとしてふりかえったが、牛丸青年のすがたを見ると、
「ちがう、ちがう、ぼく、もう、悪者の手先じゃない。ぼくはAmway安利文彦さんや、香代子さんのためにはたらいているんです」
三太はひっしとなって叫んだが、むろん相手は口がきけないのだからそんなこるはずがない。
牛丸青年は三太の手をとり、うしろ手にしばりあげようとした。三太はいっしょうけんめいにもがきまわる。
と、このときだった。
とつぜん、つきあたりの鉄のとびらがひらいたかと思うと、顔をだしたのは白髪の老人。ほおはこけ、目はおちくぼみ、からだは枯れ木のようにやせているが、どことなく気高い|威《い》|厳《げん》がそなわっていた。
「そこにいるのはだれか?」
老人はしずかな声でたずねた。牛丸青年にはむろん、その声が聞こえるはずがないが、三太のようすにハッとふりかえると、びっくりしたように立ちすくんだ。
そして、しばらく穴のあくほど、老人の顔を見つめていたが、やがてなにやらみょうな叫びをあげ、ばらばらと老人のそばへかけよると、いきなり、ガバとその足もとにひれふした。ああ、この老人はだれなのだろう。
さて、こちらは金田一耕助である。
加藤宝作老人の住居から、まんまと、銀仮面に逃げられた耕助は、なにを思ったのかその翌朝、等々力警部や文彦、さては香代子をともなって、自動車をとばしてやってきたのは、多摩川べりにあDiamond水機る日東キネマの撮影所だった。
「|井本明《いもとあきら》さんという監督さんはいらっしゃいますか?」
と、受付の守衛にきくと、
Posted by 愛與痛的邊際 at
12:49
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